なぜ医者が足りないのか?
村野瀬さんのブログからトラックバックいただいた次の記事について、取り急ぎ僕が考えたことを書きます。 『救急医療でのたらい回しへの対策を自公与党が検討するそうですが、的外れのような気がします。』 始めにお断りしますと、僕がこれから記事を書くコンセプトは「拙速」です。 未だ自分も素人である僕が、僕が知っている範囲で、できるだけ一般の方に分かりやすく問題点を紹介するものです。 不正確な記述や事実に反した内容、漏れ落ちた論点、引用元を明示しない主張があるかもしれないことをご理解の上で読んでいただければと思います。 (医療関係者の方は、間違った記述などビシバシ指摘していただければ幸いです。) 「的はずれな施策ではないか?」というご指摘について。 的はずれです。少なくとも、大勢の医師が一致してそう言っています。 これは、ITどうこうに限らないことです。 『救急医師の活用を最適化する』という発想が的外れであるようです。 先日の朝日新聞記事 『急患対応に調整役 たらい回し対策 地元医師ら配置』 朝日新聞 2008.01.07 (Web魚拓) に対する、僕が信頼する各医療ブログの否定的反応には、目を見張るものがありました。 『「朝日新聞『たらい回し対策』記事」』 がんになっても、あわてない 『的外れな対策』 ヤブ医者ブログ 『病院と救急隊を調停するもの』 NATROMの日記 他にもあったような気がします。 これが、実態を知る医師の考えだと、僕は理解しています。 それでは、なぜ「医者が足りない」のでしょうか? 実は、戦後一貫して「人口あたりの医師数」は増えているのです。 問題の根の深さを紹介するため、僕の理解の範囲で書きます。 (※以下、記述が不正確かもしれません) ■ 臨床研修(卒後研修)制度の導入 昔は、医学部を卒業した新人医師は、ほぼ全員「医局」というものに所属していました。 彼らは人事権の全てを握る「教授」の指示に従って、どんな僻地や過酷な医療分野(救急・産科・etc)にも行き、そこで医師としての腕を磨きました。 それだけでは生活が成り立たないような薄給で命をすり減らしながら働き、それが医療現場を支えていました。 最近導入された「臨床研修制度」は、そんな研修医の待遇を改善するものでした。 自分の望む病院で、過酷な下働きではなく有益な高度先端医療技術を身につけられる機会を、研修医たちに与えました。 しかし、その制度の導入が「医局」に所属する医師を減らし、過酷な医療分野での人手不足を招きました。 また診療科別に02年3月末卒業生との比較で、全国の卒後研修生(引用者注:卒後研修=臨床研修)の増減状況を分析すると、診療科目15科のうち大学帰学者が増えたのは形成外科、皮膚科、麻酔科、耳鼻科の4科目。残りは脳神経外科の42・3%減をはじめ、外科、小児科、整形外科、産婦人科、救急が20%近く減った。診療リスクの高い科目や24時間勤務体制の科目、深夜勤務の多い科目を目指す医師が確実に少なくなっている。この診療科目に偏りのある医師の供給が、医局はもとより地域医療に暗い影を落とし始めている。(熊本日々新聞2006.05.30『卒後臨床研修 医師偏在が生んだ負の連鎖』より抜粋、太字は引用者による) 非常に極端な言い方をします。 「従来は若手医師からの労働搾取によって支えられていた医療制度が、それを改めたことで崩壊しつつある」 このような事情が背景にあると、僕は考えています。 ■ 勤務医と開業医の格差 厚労省の調査「2007年度医療経済実態調査」によると、勤務医と開業医では開業医の方が1.8倍も平均年収が多いそうです。 しかし救急医療などを担うのは、勤務医によって成り立つ大病院です。 勤務医からは、「いまの診療報酬制度が勤務医の開業医化を促進し、大病院での医師不足を深刻化している」という声が多く聞かれます。 勤務医の待遇を手厚くする動きもあるにはありますが、開業医が中心の日本医師会が抵抗しています。 『再診料引き下げを再提案 診療報酬改定で厚労省』 朝日新聞 2008.01.16 (Web魚拓) ただし、この点については医師の中でも賛否両論あります。 厚労省の調査にしても、開業医の方が平均年齢も高いので、平均年収が高くなるのは当然との見方もあります。 不要不急の「眼科コンタクト診療」や「美容ビジネス」で儲けている開業医はほんの一握りだという指摘もあります。 そのような意見も紹介します。 『[政府の数字を鵜呑み]朝日も政府の犬か・・・』 東京日和@元勤務医の日々 このような問題を踏まえた上で、市民が何を選ぶのかが問われているのだと、僕は考えています。 最後になりますが、「たらい回し」という言葉について。 もっと大きな話として、市民と医師との間にある意識の差について。 医師には、「たらい回し」という言葉に非常に強い嫌悪感をお持ちの方が、大勢おられるようです。 昨年12月15日掲載の産経新聞4コマ漫画について。 『本日の医療ニュース ..。*♡ 12月16日』 産科医療のこれから 『侮辱』 天国へのビザ 僕は、この言葉を悪意無く使われてきた一般ブロガーの方々を非難するつもりは毛頭ありません(特に、この記事を書くきっかけをくださった村野瀬さんに対する批判では決してありません)。 ただ、専門を修めて日々診療に身を捧げる医師と、僕たち一般市民の間には、これほど意識に違いがあるということです。それは、不断の努力によって狭めていくしかないものです。 医療問題を扱う難しさは、こういうところにもあります。 僕が書いたこの記事だって、医療関係者の目に触れたら逆鱗に触れてしまうものかもしれないのです。 でも、だからといって市民が医療問題に関わらないわけにはいかない… 一般の方々には、不断の努力と謙虚さを望みます。医師の方々には、寛容な心と忍耐強い啓発の姿勢をお願いします。
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救急医療での『たらい回し』への対策を自公与党が検討するそうですが、的外れのような気がします。 (追記...
(文末に追記があります。一度この記事をお読みになった方も目を通していただくようお願いいたします。) ...続きを見る |
村野瀬玲奈の秘書課広報室 2008/01/20 22:10 |
| 内 容 | ニックネーム/日時 |
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すごく分かりやすいです。 |
アイスゆず 2008/01/20 14:58 |
ご感想ありがとうございますm(_ _)m 励みになります。 |
birds-eye 2008/01/20 17:37 |
いろいろな現場の証言の記事を探していただいて、重要な記事をありがとうございます。「たらい回し」という言葉が不適切であるというのはわかりましたが、どのように言い換えるか、知恵がありません。「患者転送」とでも言えば、ニュートラルになるでしょうか。 |
村野瀬玲奈 URL 2008/01/20 22:15 |
しまった代案を出し忘れていた… 追記までしていただいたのに、すみませんでした。 |
birds-eye 2008/01/20 23:54 |
医療関係者です。非医療者の方が医療の現状について理解したいと思っていることを知り、とても励みになります。 |
通りがかりの医療関係者 2008/01/21 01:17 |
通りがかりの医療関係者さん、ご指摘ありがとうございます。繊細な問題で悩んでいたところ、大変参考になりました。 |
birds-eye 2008/01/21 18:02 |
医師から見たら「たらい回し」って言われるのは苦しいと思います。特に救急医療で過酷な労働環境で働いている医師は、命が救いたくて頑張って下さっていると思います。「たらい回し」とは病院が少なくて、開業医が多すぎる状態かと。開業医の当直当番制と病床数の増加が本来の解決方法だと思います。救急病院の報酬を増やすなどの方が効果的でしょうね。 |
一般人 2008/01/21 21:28 |
一般人さん、ありがとうございます。 |
birds-eye 2008/01/22 21:24 |
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